台湾の柿渋染め〜新竹縣・新埔柿渋工房〜


 独特の風合いがあり、革のような質感もある柿渋の布。

作品の幅を広げようと、天然染料である柿渋染めに関して学びはじめたのは昨年2019年のこと。


 改めて台湾の柿渋染めについて調べてみると、その歴史は意外に浅く15年程だった。

台湾ではそもそも、中国大陸からやってきた客家の文化である藍染めや 原住民の染色(薯榔やウコン、サルスベリ、泥染めなど)以外の植物染料の研究が盛んに行われるようになったのは、ここ20年ほどのことのようである。


 台北から電車で1時間ほどの南西にある新竹県に、新埔という街がある。

'柿餅'という干し柿の名産地で、毎年秋になると多くの人が柿農園を訪れるこの街に、台湾の植物染料研究の第一人者である陳景林さんの指導のもと独自の文脈で柿渋染めを始めた「新埔柿染工房」がある。



 '柿餅'はその製造工程において大量に廃棄される皮があるが、その皮を何か有効利用できないかと考えたのが柿渋染めを始めたきっかけであったそう。


通常、柿渋染めは青柿を潰して得た汁液を発酵・熟成させたのものを染液として用いる。

通常の柿渋染めでは、6割方熟した青い状態の柿を用いる。


通常の柿渋染めでは、6割方熟した青い状態の柿を用いる。

圧縮機で実を潰し、汁を抽出する


 新埔柿染工房ではこの一般的な染色法の他に、柿餅を作る際に廃棄された皮を煮詰めたものを染料として用いている。工房で行われている柿の皮を用いた染色法は、柿が8割熟成したタイミングで皮を剥く為、含まれるタンニンの成分は少ない。このため布が硬化する作用は少なく、染色が主な目的とされる。


 大量に廃棄される柿の皮を鍋に入れ、気を抜くとすぐに鍋底が焦げ付いてしまうため常に掻き混ぜ続けなければならない作業はたいへんな重労働であるが、これが新埔の柿渋染めの特色なのでこの仕事は欠くことができないという。


 毎年柿の季節になると、工房には観光客だけでなく地域の小学校の児童達も授業の一貫で柿渋染めの体験に来るという。新埔では、柿渋染めが市のバックアップを得て広く市民に親しまれていることが感じられる。


工房では絵筆に柿渋液をつけて水墨画のように描いたり、型紙を使った刷染,ハンカチやTシャツを染める体験ができる。


型紙と刷毛を使って、布に模様をステンシルできる体験コーナーがある。

今年の春に行われた柿渋染めのイベントのポスター


 ここ数年は特に広報のデザインを強化しているとのことで、リーフレットやWebサイトも見やすく設計されており、様々な世代に親しんでもらえるよう努力されていることがよく伺えた。

 

 2018年には工房で’kirkir’という新しいブランドを立ち上げ、デザイン部には若手を起用し従来の顧客層から、若い人にも手にとってもらえるデザインを心がけているという。ちなみにこの’kirkir’という発音は(新竹に多く住む民族の)客家語と、廣南語からきている。


 アジアの他の国の柿渋染めの歴史を見てみると、韓国の済州島では中世期(1382年)に中国雲南州から柿渋染めの技術が持ち込まれたとされ、以来農夫達の仕事着の染色して親しまれてきた。日本でも平安時代、十世紀から柿渋を建材、家具、器の塗料として使用する他に僧侶の衣服に染められてきたという記録がある。


 台湾では今から約15年前に柿渋染めが始められるようになり、現在でも一般的な柿渋染めの知名度・普及率は低い。しかし、他の植物染料と違い台湾の強い太陽の日差しを受けて 退色するどころか発色を強くする柿渋染めの特色、またアースカラーを好む台湾の若者のファッションの趣向を見ると、台湾での柿渋染めの発展には強い可能性を感じる。




 お話を聞かせて下さった新埔柿渋工房の運営を担当されている吳至航さんはとても熱心な方で、私達はどうすれば台湾で柿渋がより多くの人に知ってもらえるかと話し合った。

 一般的に柿渋は青柿を発酵させたものを染料とするため、強い臭気が生じる。この匂いは布を干している間でも強烈に生じるため、染めの環境条件として風が通る広い野外であることが求められる。


 近年日本では、柿渋の臭気成分を分離精製した無臭タイプの製品が開発されている。


*無臭柿渋とは、大まかに言うと濾過等の精製によって臭いの元になる物質(酢酸・酪酸などの揮発性有機酸)を除いたものである。本来の柿渋には柿タンニンのほか、揮発性有機酸や糖質・無機物が含まれているが、これらも除去されているので、臭いのあるものと比べ、多少発色の色合いなど違いがある。また均一化していてムラになりにくいなどの特徴がある。

 基本的な柿渋染めは 媒染剤や蒸し・煮るなどの工程が不要で、布を染液に浸し、絞って乾燥後日光に当てるだけで発色固着ができる。このように手軽な柿渋染めは、難点である強い臭いの問題が解決されれば初心者でも簡単に楽しむことができる。柿渋液の無臭精製を台湾でも行うことができれば、家庭で柿渋染めを楽しむことができる可能性も広がるだろうと期待したい。


夏に日本に帰った際に、柿渋の研究をしておられる染料店の専門員の方にお話を伺うつもりである。

30回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示

© aya yamanaka